大須演芸場の独演会に合わせて
名古屋の毎日新聞がぼくの記事を取り上げてくださいました。
いつもの如く無断転載です。
毎日新聞(愛知) 2012年8月23日名古屋
「らくだの寝床 東海落語事情」
打ち返せるか その笑い
ブラックvs馬るこ 壮絶焼き肉バトル
東京・日本橋のホテルで4月末に開かれた「第6回落語一番勝負・若手落語家グランプリ」。本選出場は予選を勝ち抜いた4人の二つ目。来場者約500人による投票の結果、鈴々舎馬るこ(32)が優勝した。賞金は10万円。
馬るこが入門当時から抱いていた夢のひとつは、健啖家の師匠、馬風(72)に焼き肉をたらふくごちそうすることだ。それもコンクールなどで勝ち取った賞金で。「師匠孝行できるぞ」と馬るこは胸の内でガッツポーズを決めた。
名古屋から駆けつけたファンが、ビデオカメラを構えて馬るこに声をかけた。「名古屋のブラック師匠に喜びの声を」。このファンは快楽亭ブラック(60)のひいき筋で、ブラックと馬るこの落語会も主催する。
ブラックは現在、名古屋の大須演芸場をホームグラウンドに定め、1年の3分の1近くは大須に出演している。大須の楽屋で寝泊まりしながら出演する芸人は多く、馬るこもその一人だ。向けられたカメラに賞金袋を見せながら「おかげさまで優勝です。賞金で師匠を焼き肉に招待しますよ」と語りかけた。
馬るこは師匠馬風に孝行できるうれしさをブラックに伝えたつもりだったが、言葉が決定的に足りない。ビデオを見たブラックが「俺を接待してくれるのか」と喜んだのも当然のことだ。
優勝から2ヶ月後の6月1日から10日間連続で、馬るこは大須に出演した。初日、ブラックに「賞金で馬風師匠にごちそうさせていただきました」とあいさつした。ブラックは気付いた。「なんだ。接待の相手は俺じゃないのか」。だが、ビデオの馬るこはブラックに対して「師匠を招待」と言った。だから「俺は馬るこに招待されなければならない」と考えた。
大須は出演者が一巡して1公演だ。平日は2公演、土日は3公演が行われる。客席は入れ替え無しだから、客は同じ演者を2回あるいは3回見ることができる。
3日の日曜日、ブラックは1公演目の高座のマクラで、馬るこの焼き肉発言の説明を始めた。「ひどいヤツでしょ。俺に焼き肉をおごるといいながら逃げ回ってるんです」。爆笑の客席。舞台袖で聴いていた馬るこは、のけぞった。「ブラック師匠は誤解してるうえに、根に持っている」
大先輩が投げてくれたボールは、自分の高座で打ち返さなければならない。馬るこは次の高座で古典落語の「死神」をかけた。この演目には死神を退散させる呪文が登場する。呪文をどう設定するかが演者の腕の見せどころ。馬るこはアドリブで呪文を「ブラック師匠、誤解です。接待の相手は馬風師匠です」とした。そんな呪文があるものか。ブラックの高座で事情を知った客は大受けに受けている。
2回目の公演。ブラックは古典「お血脈」をかけた。善光寺建立の由来となる仏像が、旅人に毒蛇退散の呪文を教える場面。呪文は「言い訳ばかりするな。焼き肉をおごりたくない馬るこみたいだな」になっていた。客席は爆笑と大拍手。だが、馬るこの背中に冷や汗が流れた。「まずい。シャレに見せかけてるけど、ブラック師匠はマジだ」。ブラックの楽屋を訪ねて「わたしに焼き肉をごちそうさせていただけませんか」と頭を下げた。ブラックは厳かに言った。「カルビクッパもな」
高座の落語は一席で簡潔するのが原則。しかし、前の演者のギャグを次の演者が打ち返すことで笑いが連携する。打ち損なったら負け。客の多寡は関係無し。演者同士のプライドをかけた真剣勝負だ。異なる演者たちが連なる演芸場に身を置いた客だけが、時折に散る火花を目撃できる。
次回は9月13日に掲載します。(原文ママ)
【尾崎稔裕】
この日の夜が大須演芸場の独演会で、その宣伝ものっけていただいたので、
おかげさまで観客増に結びついたと思われます。
ありがとうございました。
焼き肉一つで新聞ネタになるんですね。
勉強になりました。
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2012年08月25日
毎日新聞(愛知版)掲載
posted by 鈴々舎馬るこ at 20:08| Comment(0)
| 記事
2012年02月24日
東京新聞 掲載
2月19日の東京新聞にて掲載されました。
例によって無断転載です。
演芸 評
SP盤の時代に当時の世相風俗を落語に取り入れて改作を行った人物は七代目林家正藏、六代目春風亭柳橋、四代目柳家小さん。初代柳家権太楼など数多い。最新の時代風俗は移り変わりが早く、噺の鮮度が落ちるのも早い。従って際物というそしりを受けることも多い。しかし多くの改作落語がそれだけこの種の作品が指示を獲ていたということにもなる。
鈴々舎馬るこは落語を独自の感覚の現代的味付けで改作し続けている。二月二日の「落語虎ノ穴」(東京・池袋のヤマノミュージックサロン)では「新一目上り」を演じた。
「一目上り」は「掛け軸の絵に添えた字句をほめるのなら『結構な賛(画賛)でございます』と言え」と教えられた八五郎が、次の家でその通りやると「これは詩だ」と言われる。その次の家で「結構な詩で」と言うと「一休禅師の悟りの悟だ」と言われ、一目ずつ上がって行く。馬るこは、もののけ姫や相田みつを、東北新幹線などの話題を盛り込んで全体を作り替えた。そしてバレエダンサーとして著名な柳家花緑の兄の名をサゲに使った。マニアックな部分もあるが、「賛」や「悟」という耳慣れない言葉を使うよりもわかりやすく、共感の大きな笑いが起きた。
常に笑いを得るために手直しを加えることも多いと思う。その成果は今後ますます形に表れることだろう。
(布目英一=演芸研究家)
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例によって無断転載です。
演芸 評
SP盤の時代に当時の世相風俗を落語に取り入れて改作を行った人物は七代目林家正藏、六代目春風亭柳橋、四代目柳家小さん。初代柳家権太楼など数多い。最新の時代風俗は移り変わりが早く、噺の鮮度が落ちるのも早い。従って際物というそしりを受けることも多い。しかし多くの改作落語がそれだけこの種の作品が指示を獲ていたということにもなる。
鈴々舎馬るこは落語を独自の感覚の現代的味付けで改作し続けている。二月二日の「落語虎ノ穴」(東京・池袋のヤマノミュージックサロン)では「新一目上り」を演じた。
「一目上り」は「掛け軸の絵に添えた字句をほめるのなら『結構な賛(画賛)でございます』と言え」と教えられた八五郎が、次の家でその通りやると「これは詩だ」と言われる。その次の家で「結構な詩で」と言うと「一休禅師の悟りの悟だ」と言われ、一目ずつ上がって行く。馬るこは、もののけ姫や相田みつを、東北新幹線などの話題を盛り込んで全体を作り替えた。そしてバレエダンサーとして著名な柳家花緑の兄の名をサゲに使った。マニアックな部分もあるが、「賛」や「悟」という耳慣れない言葉を使うよりもわかりやすく、共感の大きな笑いが起きた。
常に笑いを得るために手直しを加えることも多いと思う。その成果は今後ますます形に表れることだろう。
(布目英一=演芸研究家)
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posted by 鈴々舎馬るこ at 03:16| Comment(0)
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